AI を業務に取り入れたいとき、最初にやりがちなのは、全社員分のアカウントを用意して「自由に使ってください」と伝えることです。使い方が人任せになり、活用できる人とできない人の差が開いて、半年後に費用だけが残る。こうした経過をたどる会社は少なくありません。
別の進め方として、対象を1つの業務に絞って、期間を決めて試す方法があります。この記事では、その始め方を順に説明します。
対象の業務を選ぶ3つの条件
試す業務は、次の3つを満たすものが向いています。
- 頻度が高い:毎日、または毎週行っている。試す回数が多いほど、短い期間で結果が分かる
- 手順がほぼ決まっている:誰がやっても、おおよそ同じ流れになる。AI に任せる部分を切り出しやすい
- 間違いに気づける:出力を人が確認できる。社外への最終回答や、金額の確定のような、間違いが取り返しにくい作業は最初は避ける
当てはまりやすい例としては、問い合わせメールの返信案の作成、会議の議事録の下書き、定型の報告書の文面作り、取引先から届いた書類の要点の抜き出しなどがあります。いずれも、最終的な確認は人が行う前提です。
どの業務が該当するか分からない場合は、先に業務の棚卸しをしておくと選びやすくなります。
始める前に決めておく4つのこと
試験導入は、始める前の準備で成否の大半が決まります。次の4つを、紙1枚に書いておきます。
- 対象の業務と担当者:誰が、どの作業で使うか。最初は2〜3人で十分です
- 使うツールと、入力してよい情報:会社として使ってよいサービスと、入力してはいけない情報(個人情報、取引先名など)を決めます
- 期間:1か月から3か月で区切ります。期間を決めないと、やめ時が分からなくなります
- 確かめる項目:「1件あたりの作業時間」「1週間の処理件数」「修正の回数」など、数えられるものを選びます。測り方は別の記事「小さく試して、効果を測る」で詳しく扱います
試している間にやること
期間中は、担当者に任せきりにしないことが大切です。
- 週に1回、15分ほど、使ってみた感想と困りごとを聞く
- うまくいった指示文(プロンプト)を共有の場所に保存し、担当者どうしで見られるようにする
- うまくいかなかった例も記録する。どんな入力だと精度が落ちるのかが分かると、使う範囲を決めやすくなる
AI は、指示の書き方で出力が大きく変わります。最初の指示文は、うまくいかないのが普通です。担当者が自分の業務に合わせて直していく時間を、あらかじめ見込んでおきます。
期間の終わりに判断する
期間が終わったら、決めておいた項目を見て、次のいずれかを選びます。
- 続ける:効果があり、担当者も使いたいと言っている。手順書にして、対象の人を広げる
- 直して続ける:効果は見えたが、使う場面が合っていない。対象の作業を変えてもう一度試す
- やめる:効果が確かめられなかった。理由を記録して終える
「やめる」は失敗ではありません。数か月と少ない費用で、全社に広げる前に分かったのですから、むしろ成果です。判断の材料を数字で持っておくと、経営層への報告もしやすくなります。
試験導入でよくあるつまずきも挙げておきます。まず、担当者の負担が増えてしまうことです。普段の業務に加えて「AI を試す」作業が乗るため、忙しい時期にぶつかると続きません。繁忙期を避けて始めるか、その間は別の作業を減らす配慮が要ります。次に、出力の確認に時間を取られることです。確認の手間が、作る手間の削減を上回ることもあります。その場合は、確認しやすい形(箇条書きで出す、根拠を併せて出す、など)を指示文に加えて調整します。
もう1つは、使う人が自分の作業を AI に取られると感じ、気が進まないことです。目的は人を減らすことではなく、定型の作業を減らして、判断や対話に時間を使うことだと、経営層から明確に伝えてください。
Renode にできること
Renode では、3か月単位で、対象業務の選定、指示文づくり、週次の聞き取り、効果の集計、最後の判断の整理までを伴走します。社内で進める場合の、準備用の1枚シートの確認といった部分的なご相談も受けています。
この記事を書いた人
後藤 碧(Renode株式会社 代表取締役)。中小企業の業務整理、AI の試験導入、業務システムの見直しを、現場に入って支援している。