「業務の棚卸しが大事」とはよく言われますが、実際に始めようとすると、どこまで細かく書くのか、誰が書くのか、で止まってしまいます。分厚い業務マニュアルを作ろうとして、数週間で挫折する例も珍しくありません。
棚卸しの目的は、完璧な文書を作ることではありません。「どの作業に、誰の時間が、どのくらい使われているか」を、改善の相談ができる程度に見えるようにすることです。この記事では、そのための粒度と手順を紹介します。
書き出す単位は「1回の作業」にする
「受注処理」「請求業務」のような大きな単位で書くと、改善の糸口が見えません。目安は、1人が1回で終える作業の単位です。たとえば次のような粒度です。
- FAX で届いた注文書を見て、販売管理システムに入力する
- 月末に、各担当者の Excel から売上を集めて1つの表にまとめる
- 問い合わせメールを読み、過去の回答を探して返信文を作る
書くときは、次の項目を1行にまとめます。
- 作業の名前(動詞で終える)
- 誰がやっているか(人の名前ではなく、役割でもよい)
- どのくらいの頻度か(毎日・毎週・毎月・不定期)
- 1回にかかる時間のおおよそ
- 使っているシステムや手段(Excel、メール、紙、システム名など)
時間は正確でなくて構いません。「15分くらい」「半日」程度で十分です。正確さより、全部の作業を同じ粒度で並べることのほうが大切です。
書く人と進め方:現場の担当者に、隣で聞く
棚卸しが続かない最大の原因は、現場の担当者に「書いておいてください」と頼んで終わりにすることです。日々の作業は本人にとっては当たり前で、自分では書き出しにくいものです。
進め方としては、次の順がうまくいきやすいです。
- 部署を1つ選び、担当者に30分から1時間もらう
- その人の隣に座り、普段の1日を、朝から順に再現してもらう
- 聞いた内容をその場で上の5項目に書き起こし、本人に確認してもらう
- 同じ部署の別の担当者にも同じことをして、やり方の違いを記録する
「同じ作業なのに、人によって手順が違う」ことが見つかるのは、よくあることです。ここは良し悪しを決めず、そのまま記録します。あとで標準の手順を決めるときの材料になります。
見つかった作業を、4つに仕分ける
書き出した作業は、次の4つに仕分けます。
- やめられる作業:誰も見ていない報告書、重複している確認など
- まとめられる作業:同じ内容を複数の場所に入力している、など
- システムで減らせる作業:定型の転記、文面作り、集計など。AI や自動化を検討する候補
- 人が続ける作業:判断や対話が中心で、人が担うべき作業
AI を試す候補になるのは、3つ目の「システムで減らせる作業」です。ただし、その前に1つ目と2つ目を片付けるほうが、少ない手間で効果が出ることがよくあります。やめられる作業に AI を使うのは、遠回りです。
仕分けの結果、候補が10個も20個も出てくるのが普通です。すべてに手を付けず、「頻度が高い」「1回の時間が長い」「手順がほぼ決まっている」の3つを満たすものから1つか2つ選びます。選び方の続きは、別の記事「AI の試験導入は、1つの業務から始める」で扱います。
棚卸しを進めるときの注意点が2つあります。1つ目は、人の評価につなげないことです。作業時間を書き出すと、担当者は「自分の仕事ぶりを見られている」と感じて、実際より短く、または都合よく書くことがあります。目的が「楽にするための整理」であり、評価ではないことを、最初に口頭で伝えてください。2つ目は、繁忙期と閑散期の差です。ある月だけの記録では、年間を通じた実態が見えません。月末や期末だけに発生する作業は、頻度の欄に「月末のみ」「年1回」と明記し、忘れずに拾います。
棚卸しの結果は、一度作って終わりではなく、半年に一度ほど見直します。新しいツールを入れたり、担当者が替わったりすると、作業の中身は変わります。最新の一覧があると、次の改善の相談が早く進みます。
Renode にできること
Renode では、棚卸しの日にお客様の現場へ伺い、担当者の隣で作業を見せていただきながら、上の形で一覧にまとめます。その日のうちに内容を共有し、仕分けと、最初に取り組む業務の選定までを一緒に行います。社内で自力で進める場合のチェックシートの相談だけでも承ります。
この記事を書いた人
後藤 碧(Renode株式会社 代表取締役)。中小企業の業務整理、AI の試験導入、業務システムの見直しを、現場に入って支援している。